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江戸末期の彫刻家として名高い浜野矩随の子供である二代目矩随は、十二の時、父を失ってからは他の師匠について修行していましたが、生まれつき不器用で技術は少しもあがらず、その作品はひとつも売れなかった。その頃、母が病に倒れてしまったので、なんとかその薬代をかせぎたいと思い、数日間、仕事場にこもって、ひとつの作品を彫りあげた。そしてそれを持って、父の代から出入りしている万屋新兵衛の店へ行った。新兵衛は、その作品をしばらく眺めていたが、
「これは何を彫ったのですか」とたずねた。
「狸が坐禅をしているところです」
すると新兵衛は溜息をついて、
「あなたは名人矩随の二代目を名乗りながら、これはまたなんという出来そこないですか。狸だか狐だか、その見分けさえできない。あなたは、いっそ彫刻などやめてしまった方が親孝行というものですよ」
ときびしい意見をした。彼はすっかり自信をなくして自殺するつもりで家に帰ってきた。
寝ていた母は、その様子をみて、「お前は死ぬ気なんだね」と聞いた。
枕に身を支えて自分を見つめている母に嘘もつけず、今日の新兵衛の噺を伝えると、母はきっとして言った。
「わかりました。立派に死になさい。私が見届けてあげましょう。しかし、この母への形見として、一体の観音様を彫って下さい。たのみましたよ」
彼はすぐさま仕事場にこもり、母への形見として寝食を忘れて三日三晩彫りつづけた。
そしてやっと完成したので母に見せると、母はにっこり笑って、
「さあ、これを万屋さんへ持っていって、五十両でひきとってもらいなさい。五十両に一文欠けてもわたしてはなりませんよ」
観音様をとりあげると新兵衛は驚いて、
「これはすばらしい。私は先代の作ならたいてい知っているが、まだ、こんなものが残っていましたか」と聞いた。それで彼は自分の作品だと言うと、
「えっ、お前さんのだって、からかっちゃいけないよ」といって本気にしない。
それで母への形見として彫ったことを言うと、新兵衛は深くうなずいて、
「わかりました。五十両でお引き受けします。これは五十両でも安いくらいのものです。一心こめれば、こんな素晴らしいものができるではないですか」といってほめた。
矩随はその後、修行を重ね、父におとらぬ名工として名をあげた。
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「立派に死になさい。私が見届けてあげます」という母の一言が、眠っていた子の才能を目覚めさせた。獅子は吾子を谷底に突き落として吾子を鍛えるという。二代目矩随の母は獅子だったのだ。
こうした形の親の愛が、今、一番欠けているのではなかろうか。 |
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| (住職) |
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