平成24年3月10日 NO.266
日本人の親子(その63)
 東郷平八郎元帥が日露戦争に勝利して帰国した時のこと。どこからともなく彼の息子を文部大臣にしようという声があがった。戦功に対する行賞の意である。その時の元帥なら一言、「よろしく」といえば、事は簡単に運んだはずである。だが元帥は、「人間にはそれぞれ器というものがある。人間は器で生きてこそ幸せなのだ」といってこれを固辞し、吾子に地方の図書館に職を得させた。
 ともに日露戦争を戦った人に乃木希典大将がいる。旅順攻撃の司令官である。陣中で家族に手紙を書こうとすると紙がない。そこで傍らの参謀に「紙の持ち合わせがあったら貸してくれんか」と頼んだ。参謀が、「紙なら閣下の目の前に山と積んでいますがー」と言うと、「いやこれは軍用箋だから私用には使えない」といって、部下にわざわざ紙を借りて用を弁じた。
 その乃木大将にある人が、家宝の槍を贈った。すると大将は「お志はありがたいが、この槍を受けとるわけにはいかない。どうぞあなたの家で保存してください」といって返した。その人が後に大将に面会した時、「あの槍は国にお尽しになって、めでたく凱旋されたのをお祝い申すつもりで差し上げたのに、お受け下さらなかったのは残念です」と言うと、ただ大将は繰り返し、「ありがとう」と言うばかりであったという。
 役人の父をもった子供が、中元やお歳暮を送り返す手伝いをさせられた人の回想録を読んだことがある。親は子にこうして無言の教育をしたのである。
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 東日本大震災の時、あの混乱の中で一列になって粛々とおにぎりを受けとる人々をみて世界中から賞賛の声があがった。「日本はつまらない国だ」と戦争後の教育で教えつづけられた人々は、「おや?」という目で日本人をみつめなおしたにちがいない。
 世界の人々から賞賛されてもいい日本人の特質の一つに、公務員の清廉さをあげてもよいのではないかと思う。その日本でも公務員の無責任さが時々、槍玉にあがるが、しかしお隣の韓国や中国に比べたら、話にならない。何年か前にベストセラーになった朴泰赫「醜い韓国人」によると、韓国では小・中学校の教員を3年すると家が建つといわれている。我子を優利に扱ってもらおうとする親の付け届けが多いからだ。中国は何千年来の賄賂天国で、今でも役人に袖の下を握らせねば、簡単な役場の書類一枚も通らない。日本の公務員に賄賂が少ないのは古人の余徳がまだ薰っているからだ。
 東郷平八郎や乃木希典にことを今の子供は知らない。歴史から抹殺されているからだ。軍人の名前など教えると子供が軍国主義に走るからと考えているからだろう。軍国主義の復活など望むものは一人もいないが、そのため優れた日本人の特質まで闇に葬られるようなことになったら、日本人は誇りを失ってしまうのではなかろうか。誇りを失った民族は滅ぶ。
(閑院)

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